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復興支援助成金
プロボノによるメンタルサポート
特定非営利活動法人 心の架け橋いわて
当財団は、被災地の復旧・復興支援活動を行うNPOや社会福祉協議会などへの助成金制度を実施しています。助成先の一つ、「心の架け橋いわて」の活動を紹介します。
被災地での悩みは生活全般に困っていること
心の架け橋いわての理事長を務める鈴木満さんは、長年岩手県で勤務した精神科医。現在は外務省診療所のメンタルヘルス専門医です。震災後、9.11の経験から災害時のメンタルサポートの必要性を実感しているニューヨークの団体から支援の相談がありました。支援対象として要望されたのは、支援の効果が目に見えるNPOの紹介。福島には、要望に沿う機関がありましたが、岩手県には受け皿が見つからず、自ら『心の架け橋いわて』を立ち上げ、精神医療支援を実施することにしました。
場所は、沿岸部でも特に壊滅的な被害を受けた大槌町を選択。現在は、仮設住宅などでのサロンや医療講話会を行うほか、岩手県心のケアセンターの災害ストレス相談室で、メンタルヘルス相談に応じています。また個人の住宅を訪問し、メンタルヘルス支援を続けています。メンバーは自ら志願した若手精神科医、精神科専門看護師、臨床心理士など12名です。東京の勤務先を退職して参加している女性もいます。
「地元の方がそばにいたほうが話してもらいやすいので、大槌町の社会福祉協議会の生活相談員の方といっしょに活動しています」(鈴木さん)
仮設住宅などでのサロンでは、落語やバイオリンコンサートなどのイベントを行ったあと、医療関連の講話を実施。ひざを交えて話をするうちに、日ごろの生活相談や医療相談が自然と出てくるようになってきました。病院では話せないことも、打ち解けた雰囲気の中で自然に引き出せるようになりました。
「被災地では生活全般に困っていることが大きな悩み。健康談話は生の声が聞ける場になっています」(鈴木さん)
震災ストレス相談室を開設して約半年、ようやく自分から相談に来る人も出てきました。
「治療にあたり、支援するわれわれの側にも大きな気づきがあります。医者は病気を見るだけではなく、地域の風土や文化を知らなければ、適切な治療を行えないことをあらためて実感しています。これからさらに必要なのは、医療従事者が活動に参加しやすくなる仕組みづくり。医療機関に籍を残したまま、短期間支援を経験させるとか、参加したことで留学しやすくなる、奨学金が提供されるといった、インセンティブがあると良いと思っています」(鈴木さん)
“Union is Power”
心の架け橋いわてでは、組織運営にITを活用した新しい試みを実施しています。「沿岸部は移動までの距離と時間がかかることが大きな問題。そこで移動型の無線IT機器で、テレビ会議を行っています。将来的には、このスマートアウトリーチを幅広く使うことも考えられます」と理事の上田雅士さんは語ります。
テレビ会議に活用している移動型の無線IT機器
上田さんの普段のお仕事は、日本IBMで東北復興支援に携わっています。国際ボランティアとしてラオスに駐在していましたが、震災後に日本に戻り、昨年の4月から仙台に常駐し被災地支援にあたっています。
「高齢者が多いこともあり、ITへの理解は決して高くありません。ですから、簡単な操作で使えることも大きな要素。ソーシャルネットワークを利用したり、ホームページを作成したり、広くメディアを使って被災地の状況を伝え、必要な支援を求めていくことも必要です」(上田さん)
心の架け橋いわての活動は、本業を活かしたプロボノ。「いろいろな企業が、プロボノで支援できることがたくさんあるのではないかと思います。それを会社が支援する仕組みがあると良いと思います」と上田さんは話します。
最後に鈴木さんに今後の抱負を聞きました。
鈴木満理事長(右)と上田雅士理事
「震災では職縁、地縁、血縁が分断され、住民の受けた精神的疲労は大きなものがあります。行政や学術団体、NGO/NPOと協力し、ITなどの技術を駆使して、これを再構築していきたいと思います。運営には医療関係者のみならず弁護士や企業人などさまざまな方にご協力頂いています。心の架け橋いわてのロゴのリボンは、新渡戸稲造氏の“Union is Power”の考え方に共感し、いろいろな組織を緩く結びつける理念を表しています。9.11では10年後に症状が現れるといったケースもありました。今回の震災でも、長期的な支援が必要です」(鈴木さん)
希望を失った人、失いそうな人たちへ、希望を。心の架け橋いわての活動は続きます。