復興支援助成金

私たちは今、国づくりの最先端にいる
特定非営利活動法人 遠野まごころネット 復興支援助成先紹介 File 1

当財団は、被災地の復旧・復興支援活動を行うNPOや社会福祉協議会などへの助成金制度を実施しています。助成先の一つ、「遠野まごころネット」の活動を紹介します。


齋藤正宏事務局長。
陸前高田・上長部地区の作業所にて

仲間を助けるため、峠を越え、被災地へ

遠野まごころネットは、東日本大震災で被災した岩手県沿岸部の被災者を支援するため、遠野市民が中心となって生活物資を運び、配布したことから始まりました。震災当時の様子を、齋藤正宏事務局長は次のように話します。

「最初はとにかく、家族や親戚、仕事場の仲間を助けるため、峠を越え、水や食料を持って、それぞれ個別に駆けつけたそうです。被災地に入ると、そこには想像を絶する光景が広がっていました。瓦礫の底で、生き残った住民自らが、何とか軽トラが通れるほどの道を作ってました。通信も途絶え、ガソリンだってもちろん満足にない。個人で何かできるレベルではなく、みんなが持っているものを持ち寄り、力を集めないと何もできない状況でした。そんな状況がしばらく続く中、外からの個人ボランティアを被災地にいかに受け入れるかを考えなければならなくなったんです。当初は賛否両論あった中、受け入れの砦となり、少しでも混乱を食い止めようと結成されたのが、遠野まごころネットでした」

3月の震災発生から5月のゴールデンウィークに向け、山間の遠野市から沿岸部に派遣されるボランティアの数は増え、多い時では一日600人、バスも20台を超えたと言います。

そんなボランティアの派遣先で、当財団の助成金が使用されている場所の一つが、陸前高田市の上長部地区。この地区には瓦礫のみならず、サンマをはじめ冷凍水産物が何千トンと流れ込み、季節が梅雨に入り、夏に向かうにつれ、悪臭に悩まされるようになりました。後に「サンマ隊」と呼ばれるようになった壮大な瓦礫撤去作業の始まりでした。

「重機による地表面の瓦礫撤去が終わっても、津波を被った土の中には、倒壊した家屋のコンクリート基礎やねじ曲げられた鉄骨、ガラス、ビニール、水産物など、地表と同じ物が埋まっていました。そのことに気づいた時には、気が遠くなりました。そのままでは種を蒔いても芽が出てこないということですから。実際、ひまわりの種を蒔いたのですが、蒔いても蒔いても芽が出てこない。ようやく小さなひまわりが咲いたのは、4回目に、種ではなく、苗を植えた時のことでした」

6月、土の中の瓦礫拾いが始まります。畑の土をトラクターで30cmぐらいの深さに掘り起こし、その後は50人ぐらいのボランティアで、土地の瓦礫やゴミを拾い続けるという日々が始まりました。それでも月に三枚か四枚の畑を取り戻すのが精一杯。この作業は、秋の深まる10月まで続いたと言います。

岩手県陸前高田市上長部地区。現在は畑を取り戻しつつあるが、川をさかのぼってきた津波で大きな被害をうけた

言葉にならない繋がりを生み出すことができた場所

上長部地区には、仮設住宅に暮らす人たちも大勢いらっしゃいます。在宅の人も、ほかの地区から移住してきた仮設住宅の人も、いっしょに畑を取り戻す作業をすることで、教わったことがありました。

「私たちはどこに向かっていくのか。どこに向かっていくべきなのか。その答えが、新しいコミュニティをつくるということだったんです。瓦礫だらけだった風景が、畑に変わっていく様子を、上長部で生まれ育った人も、そうでない人も、いっしょに見て、喜ぶことができました。そういう意味でここは、言葉にならない繋がりを生み出すことができた場所となりました。上長部では今、住民自らが手がける製材所や公民館の建設が始まっていますが、これも人々の繋がりから始まったコミュニティの芽生えだと思っています」


上長部の畑に、今年は小麦も稔った

遠野まごころネットは現在、ボランティアをコーディネートし、沿岸部の瓦礫撤去を行う活動を継続する一方で、仮設住宅を回り、お茶を配ったり、足湯を行ったりする、精神的ケアを含め、地域住民とのコミュニケーションを積極的に図っています。

「今後のまごころネットの支援活動は、上長部のように地域コミュニティの再建を目的とした"郷づくり"が中心になっていきますが、これは被災地の再建に限ったことではありません。やがては高齢化や過疎化が進む、日本の地方全体で必要になってくることではないでしょうか。その意味で私は国づくりの最先端にいるんだと思い始めています。ボランティアとして全国の多くの若者が力を貸してくれましたが、もしも自分の村や町が危なくなったら、彼らや彼女らはきっと、自らが先頭に立ってまた動いてくれるに違いありません。そうした若者が育っていることが既に国づくりなんです。だから、これは被災地の復興ではなく日本の復興なんだと思います。 現在は、高齢者の方々とコミュニティを取り戻す支援が中心ですが、子どもたちのためのプロジェクトも準備中です。子どもたちが、自然やお年寄りの知恵に触れるなかで育まれる場づくりをしていきたい。15年後、20年後の世代へとつなぐ物語を始めたいと思っています」

希望を失った人、失いそうな人たちへ、希望を。遠野まごころネットの活動は続きます。

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