復興支援助成金

被災者に希望を
NPO法人 遠野まごころネット

Focus14

当財団は、被災地の復旧・復興支援活動を行うNPOや社会福祉協議会などへの助成金制度を実施しています。助成先の一つ、「遠野まごころネット」の多田一彦理事長に、活動を始めたきっかけやこれまでの活動内容、今後の抱負などについて聞きました。

東日本大震災の被災地・被災者への復興活動を開始した理由、きっかけを教えてください。

私は遠野で生まれ、高校までを過ごし、今は千葉と遠野で会社を経営しています。震災の日は会津のスキー大会会場にいました。雪山が大きく揺れたのを覚えています。千葉には連絡がつきましたが、遠野とは連絡がとれず、現地に向かいました。渋滞がひどく、休みながら22時間かかって、12日夕方にようやく辿り着きました。
震災前から、遠野の衰退を危惧し、仲間と『遠野の風土と観光を考える会』を発足させていました。ランドマークに頼らず、人と人のつながりを大切にすることをコンセプトにした集まりです。震災1カ月前には、協議会を発足。この仲間たちから、「何かしよう」という声が上がり、震災発生翌々日の13日から活動を開始し、これが「遠野まごころネット」になりました。

これまでどんな活動をされてきたのですか。

初めは、大槌町や陸前高田での物資の配送やニーズ調査に従事。併行して避難所も記載した地図を作り、サイトを立ち上げ情報発信しました。震災発生10日後ぐらいに、被災地ボランティアにビブスをつけて活動する事を行政と打ち合せをして、活動をして頂きました。被災地域の治安も守れると考えてのことです。また交通渋滞をなくし復旧活動を円滑に進めるため、遠野でいったん人と車を受け入れ、ピーク時は一日700名、バス30台のボランティアが訪れました。
2年目は仮設住宅での孤立を心配し、地域のコミュニティづくりを開始。陸前高田にコミュニティ農園をつくりました。目的は3つ。一つは、景観を変えて住民の方の癒しになること。次に土壌の再生。作物をつくることで農地としての土の機能が回復します。そして一緒に作業することによる、地域のコミュニケーションの場づくりです。現在は、地元の方による一般社団法人が立ち上がり、伴走するかたちで支援しています。
今年の課題は、風化防止。ボランティアセンターが閉鎖される中、人を継続的に受け入れていくことが必要だと思っています。遠野まごころネットでは、活動の初めに短期・中期・長期のヴィジョンを策定しました。今は長期ヴィジョンの段階。産業分野では、六次産業化を起こす時期です。大槌町では、大手スーパーとレシピを開発し、海鮮餃子の商品化を進めています。またコミュニティ再生の一環として、お弁当屋を始めました。現在は一日300食以上を販売し、利益を上げています。障がい者向けの就労支援センターの運営も始めました。市場採算性は難しい取り組みですが、大切なことは復興が目に見えるかたちで伝わり、たとえ私たちが活動できなくなったとしても、細く長く継続されていくことだと思っています。

苦労している点は?活動を通じて印象に残っていることは?

初めの専任スタッフは一人。その後、企業やNPOから人を派遣してもらい、現在は事務局10名、スタッフが25名いますが、まだまだ人手は足りません。
震災前、そろそろ仕事は終わりにしようかと思っていました。会社経営の間には、資金を持ち逃げされたり、裏切られたりの経験もありました。それが遠野まごころネットで活動している人たちを見ていると「まだまだ人っていいなあ」と思えました。日本人も捨てたものじゃないと。ボランティア参加者にも、活動を通じて人の良いところを考えてもらえると良いと思っています。

今後の活動予定や抱負を聞かせてください。自分たちの活動を通じて、被災地や被災者へ、どんな“希望”を与えたいとお考えですか。

被災者に希望を持ってもらうというまでには、まだ自信がありません。活動自体も制度的にも不十分だと感じます。今後の目標の一つは、被災地から日本を変えるような人材を出すこと。大槌では、子どもの英語とIT教育を進めています。二つ目は、高齢者に喜んでもらうこと。額は多くなく、おこづかいが稼げる程度でもいいので、良い暇つぶしの機会を提供したいと思います。三つ目は、地域産業振興です。具体的には、若者向け商品の販路を開拓するためのデザイン開発を盛岡市と行っています。商品のパッケージデザインのみならず、例えば地域の伝統的な木工製品とITを融合させるなど、ソーシャルビジネスを各地で展開していきたいと思います。そのためには地域だけでは知恵も人材も足りませんから、外から人を呼び込む努力が必要です。若者の流出が懸念されていますが、地域にとどめておくのではなく、いったんは外でいろいろ経験を積んで、将来戻ってもらえるようになると良いと思います。

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