産業復興・雇用創出支援
支援先紹介 | 一般社団法人 あすびと福島

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福島県で初の本格的な復興事業となる、当財団の産業復興・雇用創出案件の『南相馬ソーラー・アグリパーク』。太陽光発電所と植物工場の体験学習プログラム『グリーンアカデミー』を通じ、福島の子どもたちの成長を継続的に支援し、風評被害も払拭しようというものです。発案者の「一般社団法人 福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会」の半谷栄寿代表理事に事業にかける思いを訊きました。

『お願い、子どもたちのために何か考えてあげて』

――『南相馬ソーラー・アグリパーク』事業の全体像について、教えてください。

半谷栄寿代表理事

福島県南相馬の津波被災地2.4ヘクタールに、500kwの太陽光発電所を私が代表を務める福島復興ソーラー(株)が、植物工場2棟を南相馬市がそれぞれ建設。誰もが賛同するクリーンで安全な新エネルギーを創出し、そこから農作物を育て、その仕事体験を通して、福島の子どもたちの成長を支援しようというものです。子どもたちの体験学習と交流事業は、私たち福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会の役割で、三菱商事復興支援財団から基金の一部を融資頂きました。

着工した『南相馬ソーラー・アグリパーク』の建設現場

――発案されたきっかけは何だったのでしょうか。

東日本大震災の前年まで東京電力の新規事業担当役員を務めていたのですが、福島の原子力発電所と直接の関与はなかったものの、その災害について内心忸怩たる思いと責任を抱いていました。私自身、原発事故の影響を受けた南相馬出身であり、80歳の母が原発20km圏内に暮らしていました。震災直後、大変残念な話ですが、福島の内陸部にある郡山までは物資が届いたものの、その先の沿岸部に入るのは敬遠され、風評被害で物流が滞ったという現実がありました。そこで3月19日から、「一緒に頑張ろう、南相馬の皆さん」というメッセージを掲げた2tトラックを自ら運転し、南相馬の現地まで6回、支援物資を届けました。

もっとも当初は、東電OBが何をしに来たんだ、という冷ややかな視線を感じることもありました。しかし祖父母や両親が築いた信頼関係のおかげもあり、地元の方々に温かく迎え入れて頂くことができました。

4回目に支援物資を届けに行ったときのことです。物流が次第に回復する中、次に何をすべきで、自分は何ができるのだろうかと自問自答していたところ、店頭に支援物資を置かせてもらったことが縁で顔なじみになっていた地元の和菓子屋の女将から、『お願い、子どもたちのために何か考えてあげて』と思いを託されました。長期を要する福島の復興には、地域の再生を担う人材育成が急務と思い、そこで発案したのが南相馬ソーラー・アグリパーク事業でした。

――今回の事業では、和菓子屋の女将以外にもさまざまなご縁があったようですが。

農業との連携で大きかったのは、農業復興にかける熱い情熱をお持ちの、土地改良区の理事長のご賛同でした。市役所のご担当者も地権者の方々も、津波被災農地の市有地化にご尽力頂きました。和菓子屋の女将から始まった地元の人々とのご縁のありがたさを痛感しています。

3月11日完成、4月開業を目指す『南相馬ソーラー・アグリパーク』(イメージ図)

『子どもたちが支援への恩返しができる人材に成長してくれれば』

――福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会は子どもたちとどう向き合うのですか。

まずは南相馬の小学生に総合学習の一環として、南相馬ソーラー・アグリパークの体験学習プログラム『グリーンアカデミー』に参加してもらいます。子どもたちは、発電パネルを自分で動かして発電効率を学んだり、三菱自動車からご寄付頂く電気自動車『i-Miev』への充電作業なども体験し、自然エネルギーの大切さを学ぶとともに、『自ら考えて行動する力』を育んでいきます。 中学生には社団での職場体験を、高校生には体験学習プログラムの改善提案をしてもらいます。大学生にはインターンとして、全国の人々との交流による風評被害の払拭にも携わってもらう考えです。

また、グリーンアカデミーは、福島大学が新設する「復興社会事業論」の講座で代表事例として取り上げられます。復興のための企業家を目指す社会人には経営経験の場として活用してもらいます。

このようにグリーンアカデミーは、小学生から社会人までを循環する人材育成の場となります。震災以降、全国各地から寄せられている温かい支援への恩返しができる人材、社会の役に立とうと自ら考え行動する人材に育っていくことができれば、それぞれの人生は将来きっと輝くはず。グリーンアカデミーでの体験が、子どもたちの『生きる力』となり、モチベーションとなり、その中から必ず復興を担う地域再生の人材が育っていきます。

――無料とする体験学習の原資は?

各企業・団体に無理なくご支援を頂くために共同スポンサー体制をつくることに加えて、個人にもパネルオーナーとして、ホームページなどを通じて広くご支援を仰いでいきます。太陽光発電所には、パネルを2,000枚敷き詰めますが、1枚につき年間1万円のご寄付を募っています。パネルオーナーの存在は、地元の人々にとっても大きな励ましです。

――最後にこの事業にかける思いをお聞かせください。

南相馬市は、「再生可能エネルギー推進ビジョン」のシンボル事業として南相馬ソーラー・アグリパークを位置づけました。復興事業は長い戦いになりますが、太陽光発電所と植物工場は3月11日に完成し、グリーンアカデミーの体験学習は4月から開講します。まさに行政と民間が一体となって人材育成を継続し、成長した子どもたちといっしょに新しい南相馬を創っていきたいと思っています。

(敬称略)