産業復興・雇用創出支援
支援先紹介 | 協働マネジメント株式会社

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自ら立ち上げたNPOを通じて震災前から、不登校や引きこもり、障がい者を農業によって支援。協働マネジメントの布施龍一社長は、津波で事務所も自宅も車も水没しながら、すぐさま復興支援に立ち上がりました。農業を被災者支援に応用し、さらに10年先を見据えて地産地消のイタリアンレストランをオープン。愛する地元・石巻のブランド化への思いを伺いました。

「自分たち若い世代が地場産を楽しめる店を」

布施龍一社長

「食材が豊富な石巻に住みながら、自分たち若い世代が、地場産のものを楽しめる店がほとんどなかった。生まれ育った石巻のブランドを築き、発信していきたい」

強い意志を込めてこう語るのは協働マネジメントの布施龍一社長である。彼は2014年5月、石巻市に「牡蠣鉄板HASEKURA」というイタリアンレストランを開いた。東北で生産される魚介類、肉、野菜を使った料理を提供する、石巻初の地産地消型のレストランである。実は、「世界の牡蠣王」と謳われた宮城新昌氏は、その養殖技術の礎を石巻の万石浦で築いていた。こだわって育成し、〝旬感〟冷結された牡蠣は、HASEKURAではお客様の目の前で蒸し焼きにされる。調理された牡蠣は殻付きのまま、冷めないよう溶岩プレートに載せられ、お客様にサーブされる。シンプルに牡蠣本来の味を引き出し、「新昌牡蠣」ブランドの強化と定着を目指している。

布施は、専門学校でイベント業を学び、石巻市で飲食店を経営していた。だが、消化器系の大病を患ったのを機に仕事を整理。NPOを組織して理事長を務め、社会的課題となっていた不登校や引きこもり、障がい者の支援活動に専念してきた。〝田んぼは社会教育の場〟というユニークな理念の下、10アールの田を借り、田植えから、草取り、稲刈りまで全て手作業で生産した米を、『もうニートと言わせ米』と銘打ち、ウェルフェアトレード商品(社会福祉取引商品)として売り出し、完売させた。不登校の若者が障がい者を助け、学生ボランティアが不登校の若者を指導する〝協働の精神〟が培われ、若者たちが閉じた心を徐々に開き始めた。

※ウェルフェアトレード商品(社会福祉取引商品):ウェルフェアトレード(welfare trade)とは、「社会福祉」(welfare)と「公正な取引」(fair trade)を掛け合わせた造語。社会的弱者がつくる製品やサービスを、適正価格で購入・利用することにより、働く喜びと生きがいを与え、自立できることを支援する仕組み
新昌牡蠣を鉄板で蒸し焼きする松本料理長

日本青年会議所は2010年、布施に「人間力大賞」の人間力開発協会奨励賞を授与した。不登校や引きこもりなどの社会的弱者への支援は、10年先の福祉とも言われ、行政の補助も少なく、国内での取り組み事例も少ない。その中で、福祉の新しい分野となるソーシャルファームを導入し、就労の場と生活の場を提供した。また事業の一環として、社会福祉取引商品を開発・製造した。様々な悩みを抱える若者たちとの交流の中で、自立支援、社会教育、更生活動を精力的に実践してきたことが評価されてのものだった。

※ソーシャルファーム:障がい者や労働市場で不利な立場にある人々のために、仕事を生み出し、また支援付き雇用の機会を提供することに焦点をおいたビジネス

「地域の方々に愛され、活気を生み出す店に」

その翌年、大震災が起きた。

「津波が押し寄せ、足首くらいだった水位が5分ほどで腰の高さになりました。自宅も事務所も車も水没してしまいました。でも自分のことより、4人の若者のことが気掛りで生きた心地がしませんでした」

この日、5月の田植えに向け、牡鹿半島鮎川地区で女性スタッフ1人が付きそい、4人の若者が体力作りをしていた。

「彼らは自分たちで判断して高台に避難し、瓦礫だらけの山道を30キロも皆で手を取り合って歩いて生還したんです。3日がかりでした。それまで他人に声をかけるのすら大変だったのに……」

布施も立ち上がった。ガソリンや食料を自腹で購入すると、避難所や限界集落にいる高齢者たちに届けることにした。こうして約1ヵ月、布施はある事実に気付く。

「震災当日深夜から避難状況の把握に努め、行政の目の届かぬ所にも一軒一軒訪問する形で聞き取り調査をしました。すると持病のある高齢者や障がい者は、他人に迷惑をかけまいと避難所を出て自宅に戻るケースが多い。勤勉で辛抱強い東北人気質の美徳が、孤立を深め、かえって支援を困難にしていたのです。こういう方々には何度も何度も通って心を解すことから始めました」

嬉しい誤算もあった。これまで自立支援を受けていたニートの若者が、被災者に要望を聞きに行って感謝され、支援する側に回り始めたのだ。

布施は、在宅の被災高齢者の巡回事業を石巻市から受託した。さらに、農業生産法人を設立し、高齢者や障がい者だけでなく、保育園が半減した石巻で託児所を設けシングルマザーも働けるよう事業を拡大していった。農業を被災者支援にも応用したのだ。

財団との調印の様子
『牡蠣鉄板 HASEKURA』
宮城県石巻市新境町1-2-5/TEL.0225-25-7737

「補助金や寄付金はいずれ使い果たしてしまい、被災地は忘れ去られてしまいます。今後の生活再建を考えると10年単位で継続できる事業を手掛けなくてはなりません。営利企業の協働マネジメントを新設し、まずは地元食材を使ったレストラン事業から始めます。開店にあたっては、石巻信金さん、三菱商事復興支援財団さんから温かいご支援を頂きました。石巻の食文化を継承し、地域の方々に愛され、活気を生み出す店にしていきたい」

『HASEKURA』の料理の数々

今後については、石巻地域の食材の良さを活かしたパスタソースなどの商品開発、販売事業も検討中。首都圏への出店も視野に入れ、事業展開を図っていく考えだ。
「石巻にはいいものがたくさんあるのに、石巻ブランドがあるようでいて、あまりない。確たる石巻ブランドをしっかりと築き、全国に広くアピールしていきたいですね」

(敬称略)