復興支援助成金

「魚ではなく釣竿を」をコンセプトに、
「刺し子」を事業化
テラ・ルネッサンス

Focus09

当財団は、被災地の復旧・復興支援活動を行うNPOや社会福祉協議会などへの助成金制度を実施しています。助成先の一つ、「テラ・ルネッサンス」の吉野和也さんに、活動を始めたきっかけやこれまでの活動内容、今後の抱負などについて聞きました。

東日本大震災の被災地・被災者への復興活動を開始した理由、きっかけを教えてください。

テラ・ルネッサンスは、カンボジアでの地雷撤去からスタートし、その後アフリカの子ども兵の社会復帰支援などを実施している団体。海外での活動が中心で、国内での支援に見合う資金規模もなく、自分たちが何をすべきかもよく分からず、正直被災地への支援については悩みました。そんな中、かつて支援をしたアフリカの人たちが募金をして、被災地への寄付金を送ってくれました。日本円では5万円でしたが、現地の価値にすれば100万円近い金額でした。また“どんな支援を考えているのですか”と質問されたのですが、このことに背を押され、被災地での活動をすることを決めました。

これまでどんな活動をされてきたのですか。

まず、理事長と理事が被災地に入りヒアリングを実施。その結果、被災地で支援活動をしていたNPO法人の遠野まごころネットに臨時職員を派遣することにしました。一方、私は会社を退職して2011年5月から大槌町でボランティアをしていましたが、何が必要かヒアリングしたり、友人とネットで情報交換をしていくうち、手仕事で「刺し子をしてはどうか」との提案があり、6月から製作・販売を始めました。またこの頃から、テラ・ルネッサンス設立者の鬼丸理事と知り合いだったこともあり、現地調整員として活動することになりました。
最初は裁縫ができない人も取り組めるよう簡単なデザインで、かつ復興特需が終わってからも売れるようオシャレなものを心掛けました。東京でデザインし、岐阜の会社にキットにしてもらい、大槌で製作。避難所の1、2名によるコースター作りから始め、現在は50名以上に増えました。20歳代から80歳代の女性が取り組んでいます。自宅で製作した商品を、週3回の「刺し子会」で買い取り。刺し子会では品質を上げるための講習会も実施しています。
品ぞろえもコースターから、布巾、Tシャツ、パーカー、マルチクロスなど種類も増えてきました。企業とのコラボレーションで掛け軸、エプロン、テーブルクロス、タペストリーも作っています。販売代理店が全国に十数カ所あります。東京でもイベントなどで販売。大槌にスタッフ4名、パート職員3名、東京にもボランティア5名、販売を手助けしてくれるサポーターが20名程度います。「魚ではなく釣竿を」、つまり継続した事業になる技術やノウハウの支援がコンセプト。今年6月までの売り上げが累計4000万円で、刺し子さんには1400万円が支払われています。

ご苦労された点は?
活動を通して、被災者の言葉などで特に印象に残っていることは?

一言で言えば、ビジネスの経験不足。値付けもしたことがなければ、マーケティングの経験もない、利幅や利益配分など全てが手探りです。現在、人件費はテラ・ルネッサンス本部から支給されていますが、それがなくなっても事業として成り立たせるための仕組みを検討中です。夏はTシャツが売れ、冬は落ち込む。3月11日にかけ、全体に盛り返すといった波もあります。刺し子さんたちに仕事を頼めるよう、いかに売れ行きを維持するかが悩みどころです。
初期の頃の話ですが、初めて作ったコースターをおばあさんから300円で買い取りました。「孫にジュースを買ってあげられる」ととても喜ばれました。85歳のあるおばあさんからは、「刺し子がなければどうなっていたか分からない。嫌なことばかり考えていたに違いない。いつまで生きられるか分からないけれど、一生続けるからね」と感謝されました。この短期間に、本当に一生分の感謝をされた感じがします。

今後の活動予定や抱負を聞かせてください。自分たちの活動を通じて、被災地や被災者へ、どんな“希望”を与えたいとお考えですか。

あと2年くらいで、独立採算できる事業として、現地化を達成したいと考えています。現地でパート職員を雇用したのもその一環で、刺し子会の運営や発送の仕事をしてもらっています。独立採算となった後も、しばらくは広報や販売サポートなど後方支援が必要だと考えています。
被災地の状況は、日本全体が抱えている課題の縮図とも言えます。刺し子プロジェクトが日本の過疎地域のビジネスモデルの一つになればと思います。この地域の方々は、自信が足りないと感じます。東京から戻ってきた方も、負けた意識を持っている方も少なくない。でも実際には、優秀な方も大勢いらっしゃいます。ビジネスモデルを発信して、自信をつけていただければと思っています。

『NPO法人テラ・ルネッサンス』webサイトはこちら

このページのトップへ