支援先紹介 | 農業生産法人 株式会社みちさき

新たな農業モデルで地域復興の〝道先〟案内人に

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農業生産法人 株式会社みちさきの菊地守社長は、仙台の沿岸部で10代以上続く農家。しかし、東日本大震災の津波で自宅も田畑も失いました。失意のどん底から立ち上がり、養液栽培という新しい農法で、農業による地域復興を目指す菊地守社長に、その決意と夢を伺いました。

「背中を強く押したのは
〝地元との共存共栄〟という精神でした」


菊地守社長

「津波で何もかも流されました。しかし、逆に可能性や選択肢は広がったとも言えます。次の世代に引き継げる、次世代が引き継ぎたいと思うような、魅力あふれる農業に転換していきます」

こう語るのは、農業生産法人みちさきの菊地守社長である。彼は仙台の沿岸部で10代以上続く農家で生まれ育ち、宮城県農業短期大学を卒業後、茨城県で1年間修業した後に家業である農業を継いだ。2004年には、六郷アズーリファームを起業。ラジコンのヘリコプターを駆使して農薬や肥料を散布する仕事を請け負ったり、周辺農家50軒と協力してスーパーマーケット7店舗に地場野菜を出荷できる体制を整えるなど、事業経営は順調そのものだった。
「あの日は、最初の揺れで87歳になっていた祖母を守りながら、ラジコンヘリの無事を確認しているうちに第二波の揺れが来ました。車に乗り込み逃げようとしていると、前年のチリ地震とは比較にならないすさまじさで、300メートル先にある松林を越えて津波がやってくるのが見えた。サイレンを鳴らしたパトカーが、我々が逃げようとする方向から逆走してきていました。そんな混乱の極みの中、渋滞している一般道は避けて、農道を脱輪しそうになりながら車を走らせ必死に逃げました」

命からがら何とか逃げおおせたが、自宅も田畑も津波の黒々とした濁流にのみこまれた。そればかりか、いっしょに六郷アズーリファームを切り盛りしてきた弟も失った。悲嘆にくれる菊地に救いの手を差し伸べ、事業再開を考えるきっかけを与えたのは、ある大手外食チェーンだった。イタリア料理に欠かせないトマトを育て、出荷して欲しい、費用は1億円を提供する、というのだ。震災からわずか1カ月後のことだった。
「4月7日に最大級の余震に襲われていたこともあり、まだ予断を許さない状況が続いていました。相手にとってもお金をドブに捨てるような結果になるのではと心配し、当初はお断りするつもりでした」

提案の内容は、養液栽培という日本では比較的新しい農法だった。塩害の農地再生には3~5年はかかるだろうと言われていた。その農法によれば、ハウスを建設し、土は使わず、野菜の生長に必要な肥料を水に溶かした培養液で栽培する。そのため天候リスクに左右されることなく、もちろん塩害の土地でも栽培が可能である。
「トマトを本格的に栽培した経験がなかったので不安もありましたが、彼らが掲げる〝地元との共存共栄〟という精神に強く共感したこともあり、チャレンジすることにしました」

ハウスでのトマト栽培の様子

「農業を核とする〝テーマパーク〟が将来の夢」

決断してから菊地の行動は素早かった。農業を再開できずにいた近隣の農家10人を誘い、仙台市若林区の水田1.6ヘクタールを借り受ける手筈を整え、農業委員の協力を仰ぐために奔走した。農地転用申請の甲斐もあり、東日本大震災農業生産対策交付金の審査が最速で通り、震災3ヵ月後の6月には造成工事を始めることができた。コストをできるだけ低く抑えるため、ハウスは韓国から輸入した。取り扱い説明書がなく、唯一の設計図となったのは完成写真。そのせいもあり、組み立てには60日もかかってしまった。12月にはハウスの試験運用を行い、年明けの2012年1月16日にトマトの植え付けを行った。さあ、これからいよいよ収穫という4月に、爆弾低気圧に襲われて屋根が吹っ飛んだハウスもあったが、下旬には仙台の奥山恵美子市長に試食してもらい好評を得た。5月には何とか最初の出荷に漕ぎ着けることができた。

〝みちさき〟ブランドの袋に包装されたサラダホウレンソウ

その一方で、震災の年の12月、農家、企業、行政が参画して仙台東部地域6次化産業研究会が発足していた。同会で菊地は副会長を務めた。自ら6次化を果たしていくべく、初出荷から2カ月後の7月、養液栽培を軸とする農業生産法人を起業し、「みちさき」と命名した。

※6次化:農業や水産業など第1次産業の生産者が、加工・商品化する第2次産業、流通・販売を行う第3次産業にも総合的に関わって付加価値を得ることで、第1次産業を活性化させようとする取り組み

 

「仙台銀行のバックアップで、4ヘクタールの土地を確保、2013年1月にはハウス3棟の起工式を開くことができました。その後、仙台銀行の紹介で三菱商事復興支援財団にも出資いただき、大変感謝しています。今では、トマトのみならず、サラダホウレンソウをはじめ葉物類やイチゴなども生産しています。財団に支援いただいた資金を活用し、各ハウスに包装・衛生管理設備、保冷庫を備える出荷施設を併設しました。これにより安全で効率的な青果物の出荷が可能になり、 20名を新たに雇用することができました」


財団の支援を活用して導入された機械を利用しての、サラダホウレンソウの袋詰めの様子

将来的には、農業を核とする〝テーマパーク〟を実現することが菊地の夢だ。

「地域とのつながりを深めるため、週末には朝市を始め、農業を学ぶ場の開催も検討中です。農業による復興を実践し、10年、20年後の地域を明るい未来に導く〝道先〟案内人の役割を果たしていきたいと思っています」

(敬称略)


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